2001年5月1日(火) エレガントインド旅行(17):これが噂のタージ・マハール

 

一休みした後は、再びダーラムさんと合流し、いよいよTのインドにおける最大の目的である、タージ・マハールに向かう。

タージ・マハルは、白い大理石でできている。 そのため車の排気ガスで汚れるのを防ぐため、廟の半径500m以内はガソリン車などの進入は禁止になっている。
その為我らも近くで車を降り、電気自動車のタクシーのような物にのって向かうことになる。 電気自動車の中で、ダーラムさんよりタージ・マハルでの注意を受ける。

 「イーですか。 タージマ・ハールでは物売りが『ミルダケ』と言って物を持ってきますが、触ってはダメデス。 触っただけで買わされまス。
写真なども勝手に撮っておいて金を請求してくるので気をつけてくださーイ。
あと、汚れないようにタバコや、ライターの持ち込みも禁止です。 あと、ガムとかもダメデス」

との事である。 よその観光地ではこんな注意は受けなかったのだが。 やはりここはインド一の観光地だけあって、観光客を狙った悪徳商人や悪党が沢山いるとの事。 ダーラムさんは同じインド人として恥ずかしいと言っていた。 確かに先ほどの車を乗り換える間ですら、凄い強引でしつこい物売りが沢山いたな。

しばらく進むと、入り口らしきところに到着。 電気自動車を降りると(まあ乗る時もだが)、すさまじい物売りアタックである。 物を差し出してくるどころか、無理矢理押しつけてくるので進路妨害である。
そいつらをかき分け敷地内を進む。 中に入るとさほど物売りはおらず、どちらかというと人気がまばらなくらいである。 道の脇には大きな木が生えており、菩提樹やガシュラムの樹だそうな。 ドリカムの歌に出てきた様な名前だな。

そこからちょっと進み、ついにタージ・マハルの正面にたどり着く。 この正門だけでもかなり凝った作りですばらしい。
ここでボディチェックを受けて中に進むと、そこには綺麗な庭が広がり、その先には霊廟がババーンと建っている。

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タージ・マハル(Taj Mahal)
タージ・マハルは、アーグラーのみならず、インド全土でもっとも人気のある観光スポット。 ムガル朝のシャー・ジャハーン帝が、1631年に他界してしまった最愛の妻、ムムターズ・マハルのために築いた霊廟だ。 街の東に位置し、ヤムナー川を着たに見渡すように建っている。 シャー・ジャハーンは、この霊廟を築くにあたり、これまでにない美しい建物を造ろうと考えた。 そのために、ジャイプール近郊のマクラナからは白大理石、バクダッドからは赤瑪瑙、チベットとペルシアからはトルコ石、ロシアからはマラカイト、エジプトからは金・・・と、世界各地から最高の資材を取り寄せた。 さらにはトルコや欧州からも優秀な技術者を呼び寄せて設計や指導にあたらせ、最終的に1631~1653年の22年にわたる歳月と、2万人におよぶ労力を費やして完成した。

 「おおー、これが噂のタージ・マハール」 とか思っていると、

 「アレ? Tィーサンはどこですかァ?」

とダーラムさん。 確かにTがいない。 あれ?と周りを見回してもいないので、正門の内部に戻ってみると、Tがボディチェックで捕まっている。 俺たちがTに気づくとホッとしたようにこっちに向かって手をふり、

 「おぉーい。 たーすけてくれー」

とか言っている。
どうやらダーラムさんに注意されたのにもかかわらず、ガムを持ち込んで捕まっているのである。 しょうがなくダーラムさんが引き返し、Tを解放してもらい、やっと全員タージ・マハルの正面に到着する。

ここで、タージ・マハルの解説を一通り受ける。 解説を終えるとダーラムさんは出口に近いガシュラムの樹のところで待っていると言うことなので、ここから二人で建物に向かうことに。
とりあえずTが我慢できないらしいので、トイレに行っておく。 ここからトイレも結構遠いが、そこしかトイレはないので、タージ・マハルの建物まで行くとトイレに行くことは難しい。 俺は出すと止まらなくなりそうなので、外で待つ。

トイレから戻ると二人で写真を撮ったりしながら霊廟に向かう。 霊廟までの庭もすごく綺麗であり、何人もの庭師の様な人が手入れをしている。 美しさを保つことにかなり力を入れているのだ。 こんなところ汚した日には、どんなに怒られるかわかったもんではないので、尻の穴に力を入れる。

霊廟の正面にたどり着く。 ここからは土足禁止である。 入り口の脇に靴を預ける場所があるので、そこで靴を脱ぎチップを渡して預ける。

 「いよいよ内部に突入だぜ。 準備はいいか?」

と振り返ると、Tはどこに行ったのか、またいないのである。 周りを見渡すと、霊廟の真っ正面にいる。 近づいてみると、何やら様子がおかしい。 片手で腹を押さえてくの字型になっており、もう片方の手で口を押さえて立っているのである。 そして、何か込み上げるようにぐぉんぐぉんと身体が動いているのである

 「あ、この動き見たことある。 飼ってた犬が吐く時だ。 こいつぁヤバイ!」

やばいというはTの体調を心配してのことではなく、場所の問題である。 何故よりによって、なんで霊廟の真っ正面なのだ! 気持ち悪くなったのなら、靴を預けたところより、さらに脇に行けばいいのに! よりによってここかよ!

 

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上から見た図

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前から見た図

 

 寸分違わぬド真っ正面だ。 ガム程度のゴミを持ち込んでもいけないのに、よりによってゲロ! たぶんここでゲロした人は世界で一人もいないだろう。
しかも真横にインド警備員が立っており、「む!?何だこいつ。 まさか吐く気か!? マジカヨ!?」と思っているのは明白で、目を大きく見開き、腰の物に手をかけて睨んでいるのである!

 『ああ、ここでゲロなんか吐いた日には、とんでもないことが起こる気がする。
警備インド人たちに警棒でボコボコにされて、山奥で一生強制労働とかさせられるのではないだろうか?
おとーさん、おかーさんサヨウナラ。 あなたの息子に生まれて、私は幸せでした。』

俺は絶望感にうちひしがれTを見るが、『あーなったらもう、出るんだろうなぁ』、なんて冷静に判断。 それと同時に『あきらめたら終わりだ! どんな絶望的な状況でも抜け道はあるものだ!』と奮起。 最善を尽くすために、手に持っていたタオルでゲロ受け止め体制に入る

 「うまくいけばゲロを余さずキャッチできるだろう。 しかし、同時に尻からも何か出たらアウトだ!

と思いながらTをマンツーマンディフェンス。 Tのヨロケる動きにあわせて俺様も動き、一瞬の気も抜けぬ攻防戦である。 きっと端から見ると新しいスポーツか何かと思われる事だろう。
しかし、Tも予想外に頑張っている様子。 折れ曲がった身体はさらに角度を増し、顔面は地面スレスレ。 その状態でフラフラ脇に移動つつある。 その移動のベクトルを利用し、少しでも正面から離れる様に誘導する俺。
なんとか脇の芝に誘導すると、Tは芝に倒れ込む。 なんと、結局吐かずにすんだのだ! 「よくやった」と言いたい気分だが、どちらかというと「最初からゲロしようとするな」と言いたい。

倒れたTは「しばらくこのまま休ませてくれ」と言っている。 トイレに行かそうにもトイレは遠いので、「今動くと途中で出るぞ」と脅すので、そのまま休ませる。
しかし数分休んだところで、体調の回復は望めない。 「動くと出る」とか言っているので、引き返す訳にもいかぬのである。 俺様する事もなくボーっとただ待つ。 付き添っていたところで何もする事は無い。
せっかくなのでTのカメラを持って、一人で霊廟に入る事にする。

今日も天気がよく大理石が熱せられており、裸足の足には熱すぎる。 ピョコピョコ跳ねながら入り口目指して移動する。
入り口のところには、何故か大勢のインド人がたむろっていた。 別に物売りでも何でもないようで、目的は謎である。 彼らの隙間をぬって霊廟に進入。
中は写真は禁止である。 どちらにしろ真ん中に何かあるだけで、特に見るような物はない。 この建物は外から見たほうが楽しめると思われる
あと、中で何か叫ぶと反響か何かで何かなるらしいのだが、説明が無いので全くわからない。 外人が叫んでいるので、俺も同じような感じで叫んでみたのだが、やはり何が起こったのかわからなかった。

早々に外に出て、写真なんぞ撮りながら周りをぐるっと歩いてみる。

霊廟からみた正門。 正門だけでも見応えがある。 Tはこの写真左下あたりに倒れている。

霊廟からみた正門。 正門だけでも見応えがある。 Tはこの写真左下あたりに倒れている。

 

Tの元に戻ってみると、相変わらずシナチクの様にでろーんと倒れている。
 「とりあえずダーラムさんが外で待っているので、現状を報告しに行ってくる」と言うと、ちょっと気分が持ち直したので自分も戻るとの事。 ていうか、今は吐き気は収まったが、便意が高まっているらしい。 上から下から忙しい奴だ。 で、そういう事なので、この場で倒れていても解決しないので、トイレに向かわなくてはならないのだ。

最悪の事態に備え、真っ正面の道は避けて端の道を通って歩き出す。 歩く速度は亀のごとし。 早く戻らないと漏らしそうだし、急ぐと刺激で漏らしそうと言うジレンマに陥りながら、バランスを伺いながら歩かせる。
しかし途中Tは、「う、出る」とか、「あの茂みで良いかな?」とか俺様をドキドキさせる発言を連発するのである。 「良いかな?」と言われても駄目に決まっている。 だいたいその茂みの真横には、庭の手入れをしている人が何人かいるのである。

 「いや、ゲロならともかく、下痢だったらズボンをはいたまましてくれ。 頼むから。」

と心の底からお願いする。 この庭にソソウをする事が引き起こす影響を考えると、まだお漏らしの方がマシである。 なんなら、そのお漏らしの汚名は俺様がかぶっても良いのでそのままして頂きたい。 さらに言わせてもらえば、出ちゃった時の事を考え、今の内にTのズボンの裾を結わえておきたいぐらいだ。

結果として、なんとか出さずにトイレにたどり着く。 先ほどのゲロを我慢した事と良い、Tはやる時はやる男と褒めて良いんだか悪いんだかは微妙だ

結局お約束通りというか何というか、Tはインドに来て最大の目的を達成する事はできなかった。
まあ、内部まで入った俺様の感想としては、Tの倒れていたあたりから見上げるか、正門から眺めるのが一番格好いいと感じたタージ・マハールであった。