2001年4月29日(日) エレガントインド旅行(03):魔神ダーラム

 

目印のバッチをつけて空港の外に向かう。
飛行機の中で便所に行った時、このバッチを便器に落としてしまったので、あまりつけたくないが目印なのでしょうがあるまい。  つーか、現地ガイドとの目印はこれだけなので、非常に心許ないのだが。空港の出口がみえる。 予定ではこの出口あたりでガイドに合流する事になっているのだ。
出口まで来ると、他のツアーのお迎えらしき人が沢山いる中に、こちらに向かって手を挙げている人がいる。 この人が俺たちのツアーのガイドらしい。

ミスター・ダーラム

ミスター・ダーラム

 

このガイドは、名前をダーラムさんと言う。 風貌はメガネかけてちょっと小太りで、インド人らしく口ひげをたくわえており色黒。 メガネを外してエジプト風の服を着ればランプの魔神と言ったイメージである。 そして、日本語は、『コニチハー』だけどころがペラペラで、出会い頭から良く喋る。 既に予想が大幅にはずれてしまった。

ちなみに俺様は何故かこの『ダーラム』と言う名前が覚えられず、ツアー中に何度も『ダーマルさん』とか『ダールマさん』とか呼んで、Tに間違いを指摘されて続ける事となる。

移動用の車に向かう途中、他のツアー客は何人いるのか聞いて見ると、オフシーズンと言う事もあってツアー客は俺たち二人っきりらしい。 俺たちは実はこうなる事を期待しており、まさに望み通りの環境といえる。 まあ、

 『キュートな女性と行動をともにするのでは!』

とはかない期待を抱いたものの、インドでは無理と二人で話し合っていたところだ。 早めに覚悟しておかなければ、ヨヨヨと泣き崩れるところだった。 危ない危ない。

車につくと、マンシンさんという運転手がいた。 風貌は痩せて、やはり口ひげを生やしており、凄く真面目そうなキャラクターである。 この人は日本語はしゃべれないようだ。 車は普通の四人乗りの乗用車で、他のツアー客がいたらどうするのか謎ではある。 とりあえずこの四人でツアーを繰り広げる事となるのだ

本日の予定はそのままホテルで一泊なので、ホテルのあるニューデリーに向かう。 その途中、


「良かったらワタシの家に来て酒でも飲みませんカ?」

とのダーラムさんの誘い。


『よくインド旅行者が知り合った人の家に招かれて食事したと言う話を聞くが、どういうシチュエーションでそうなるのだろうか? 変わった体験で羨ましい』

と思っていたので、俺様オッケーと答える。 しかし、Tを見ると、


『このガイドは本当のガイドを始末して入れ替わっており、俺たちを騙して身ぐるみはがそうとしているのではないか? 殺されるぅ!』

と疑っているようで、この出来事が本当だったら幸運とは思っているようだが、素直に信じ切れない様子ではある。
俺様もチト疑ってはいるものの、そうなったら

 『一世一代の大暴れして死に花を咲かせてやろう』

と覚悟を決める。
ここで、ダーラムさんが日本語があまりしゃべれなければ、どうするか秘密会議を開く事が出来るのだがそうも行かない。 『この点はちょっと困るなぁ』と思っていた。 やはりこっちだけの話にしておきたい事はあるしのう。 向こうはヒンディー語で運転手と秘密会話できるし、なんか不利ではあるのよね。

Tのノーテンキインド旅行記 1

 成田から8時間のフライトをし、やっとインド空港に到着。 日本で用意したドルをインド通貨であるルピーに両替し、なんとか空港出口に行ったその時、

 「Tぃーサーン」

という「私は怪しい外国人ですっ!」って主張してはばからない声が!
そこには恰幅のよいインド人が立っている。

 「ようこそいらっしゃいました。ダーラムといいます」

とニコニコしながら言う。現地案内人の人らしいが・・・。 俺はとりあえず

「初めまして、こんにちは。Tです。他の人はどうしました?」

と挨拶兼質問をしたら、

 「あなた達だけよ」
 「えっ俺らだけ?」
「ハイ!車まで行きましょう。ホテルに案内します」

と外に連れていかれる。 俺は「ホントにこの人に付いていって大丈夫だろうか?拉致監禁とかされないだろうな?」と心配になってくる。
ダーラムさんは部下らしき人間にヒンドゥ語で何か指示している。 その部下がニヤッとしながら

 「オーケイ、ボスッ!」

と去っていく。

「まっ、まさか監禁の準備を指示した?」

と俺はさらに勘ぐる。 考えて見れば、自分らの名前は鞄の名札に書いてあるので、名前を呼ぶくらいたやすいのでは? どんどんと不安になってくる。とりあえず車に案内され、運転手の人を含めた4人で車に乗り込みホテルに向かう。最初は、薄暗い部屋に縛られている二人を想像したりして、緊張していたが、「何歳に見えます?」「インドは初めて?」とか会話しているうちに、ちょっとなごんできた。「俺の考え過ぎだな」って考え始めてきた頃、

 「担当は竹内さんですか?」

とダーラムさんが言う。竹内さんとは旅行代理店の担当の方である。 「おう?竹内さんを知っているという事は大丈夫だな」とすっかり安心する。 と、安心しきったところでダーラムさんが、「このあと何か予定ありますか?」と聞いてくる。そんなものはあるわけなく、その旨を伝えたら、

 「私の家に来て、一緒に飲みませんか?歓迎しますよ!」

爆弾発言!家?招待?歓迎?マジですか?やはり誘拐?監禁?何する気ですか?金なんて無いですよう!まっ、まさか俺の臓器を狙っている?止めた方が良いよ。俺、胃腸弱いよ。すぐ下痢するよ!と心の中で叫ぶ。

ここで俺様と相談したいところだが、俺らの会話は日本語が堪能であるダーラムさんには筒抜けである。代わりにダーラムさんと運転手のヒンドゥ語会話はさっぱりわからない。誘拐の段取りされたって、俺らはニコニコするだけである
ん~、誘いを断るのは簡単だが、本当にダーラムさんが良い人の場合、機嫌を損ねてしまいこれからの旅に支障をきたすかも知れないしな~。俺様と目で会話する。奴は覚悟を決めたらしい。もうどうにでもなれだ。 俺様が

 「じゃあ、お邪魔します」

と答える。それを聞いたダーラムさんはとっても嬉しそうだ。

 「フッ、俺の人生もあっけなかったな。せめて結婚したかった・・・」

とその時は悲観にくれてしまったものだが・・・